この記事を書いた人

日本泌尿器科学会泌尿器科専門医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
2026年10月に原木中山でクリニックを開業予定。
精巣腫瘍とは?どんな病気?
精巣腫瘍(せいそうしゅよう)とは、男性の精巣(睾丸)にできる腫瘍のことを指します。精巣は精子をつくる臓器で、陰嚢(いんのう)と呼ばれる袋の中に左右一つずつあります。そこにできる腫瘍の多くは「悪性腫瘍(がん)」です。
比較的まれな病気ですが、20~40歳代の若い男性に多いのが特徴で、男性特有のがんとしては前立腺がんに次いで注目されています。発見が遅れると転移しやすいため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
精巣腫瘍の症状にはどんなものがある?
精巣腫瘍の代表的な症状は、精巣(睾丸)のしこりや腫れです。痛みを伴わないことが多く、気づかず放置されるケースもあります。
次のような症状が見られた場合は注意が必要です。
・精巣が片方だけ大きくなっている
・触ると硬いしこりを感じる
・痛みはないが、違和感や重だるさがある
・陰嚢(いんのう)が腫れて左右の大きさが違う
・乳首が張る、胸が膨らむ(ホルモン異常による)
がんが進行すると、腰痛や背中の痛み、咳、息苦しさなど、転移による症状が出ることもあります。痛みがないために「放っておけば治る」と思われがちですが、自己判断せずに早めに泌尿器科を受診することが大切です。
精巣腫瘍のガイドラインではどう治療する?
日本泌尿器科学会が定める「精巣腫瘍診療ガイドライン」によると、精巣腫瘍は以下のように分類・治療されます。
まず、病理学的には大きくセミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマ(非精上皮腫)の2つに分けられます。
・セミノーマ:放射線や抗がん剤に比較的反応しやすく、進行しても治る可能性が高いタイプ。
・非セミノーマ:進行が早いが、化学療法で治療できる可能性があります。
ガイドラインでは、治療方針の基本として次のような流れが推奨されています。
① 診断がついたらまず患側の精巣を摘出(高位精巣摘除術)
② 手術後に病理結果に応じて治療方針を決定
③ ステージに応じて抗がん剤治療や放射線治療を行う
この手順は世界的にも標準治療とされ、早期に行うことで高い治療成績が期待できます。
精巣腫瘍は悪性の確率が高い?
精巣にできる腫瘍のうち、約95%が悪性(がん)といわれています。つまり、精巣にしこりが見つかった場合、そのほとんどががんの可能性があるということです。
ただし、悪性といっても精巣腫瘍は治療による完治率が非常に高いがんです。転移があっても、抗がん剤治療の効果が高く、5年生存率は90%以上と報告されています。
良性腫瘍(脂肪腫や血管腫など)はまれですが、見た目や触診では区別できないため、必ず画像検査や血液検査での診断が必要です。
精巣腫瘍の検査はどう行う?
泌尿器科では、以下のような検査を組み合わせて精巣腫瘍を診断します。
・触診:精巣の腫れや硬さ、左右差を確認します。
・超音波(エコー)検査:腫瘍の有無や内部の性状を確認。痛みのない基本的な検査です。
・血液検査(腫瘍マーカー):AFP、hCG、LDHといった数値を測定します。これらが高値の場合、がんの可能性が高くなります。
・CT・MRI検査:転移の有無を確認し、治療方針を決める際に重要な検査です。
・精巣摘出による病理診断:確定診断は摘出した腫瘍を病理検査で調べることで行われます。
これらの検査は短期間で行われ、早期に診断・治療へとつなげることが可能です。
精巣腫瘍の治療方法には何がある?
精巣腫瘍の治療は、手術・化学療法・放射線治療の3つが中心です。
1. 高位精巣摘除術(こういせいそうてきじょじゅつ)
がんのある精巣を鼠径部(足のつけ根)から切除します。再発防止のため、早期でも必ず行われる治療です。
2. 化学療法(抗がん剤治療)
転移や再発がある場合に行います。多くの症例で効果が高く、完治が期待できます。
3. 放射線治療
セミノーマ型の精巣腫瘍で、転移が限局している場合に行われます。
治療後は、定期的な血液検査・CT検査で再発の有無を確認します。再発しても治療によって再び寛解(治る状態)を目指せることが多いです。
精巣腫瘍は、若い世代に発症しやすいものの、早期発見すればほとんどが治るがんです。「精巣が腫れている」「しこりがある」と感じたら恥ずかしがらずに泌尿器科を受診し、早期の診断と治療につなげましょう。