この記事を書いた人

日本泌尿器科学会泌尿器科専門医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
2026年10月に原木中山でクリニックを開業予定。

尿失禁とは?どういう状態を指すの?

尿失禁(にょうしっきん)とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態のことをいいます。年齢や性別に関係なく起こる可能性がありますが、特に女性や高齢者に多くみられます。
「ちょっと動いたときに漏れる」「トイレに間に合わない」といった軽い症状でも、日常生活に支障をきたすことがあり、恥ずかしさから受診をためらう方も少なくありません。
しかし、尿失禁は治療や生活改善で良くなることが多いため、早めの対応が大切です。

尿意が無いのに尿漏れをしてしまうのはなぜ?

「尿意が無いのに尿漏れをしてしまう」という場合、膀胱の神経や筋肉のコントロールに問題がある可能性があります。
このような状態は「切迫性尿失禁」や「溢流性(いつりゅうせい)尿失禁」と呼ばれます。
・切迫性尿失禁:膀胱が勝手に収縮し、急に強い尿意が起きて漏れてしまう。尿意を感じる暇がないこともある。
・溢流性尿失禁:膀胱に尿がたまりすぎてあふれ出るように漏れる。前立腺肥大症や神経因性膀胱が原因のこともあります。

いずれの場合も、体の異常や病気が関係していることが多いため、早めに泌尿器科を受診して原因を特定することが重要です。

尿失禁の原因には何がある?

尿失禁の原因は、加齢や出産、病気などさまざまです。主な原因には以下のようなものがあります。
・加齢による筋肉の衰え(骨盤底筋の低下)
・出産や妊娠による骨盤周囲の損傷
・前立腺の肥大や手術後の影響
・神経疾患(脳梗塞、脊髄損傷、糖尿病など)
・肥満や慢性的な咳による腹圧の増加

また、ストレスや冷え、生活習慣の乱れも尿失禁を悪化させる要因になります。

尿失禁の種類にはどんなものがある?

尿失禁にはいくつかのタイプがあり、原因や症状によって治療法も異なります。代表的な種類は次の通りです。

・腹圧性尿失禁:せき・くしゃみ・笑うなど、お腹に力が入った瞬間に漏れるタイプ。女性に多く、骨盤底筋の緩みが主な原因です。
・切迫性尿失禁:強い尿意が突然起こり、トイレに間に合わず漏れてしまうタイプ。過活動膀胱が関係していることが多いです。
・混合性尿失禁:腹圧性と切迫性が同時に起こるタイプ。中高年女性に多く見られます。
・溢流性尿失禁:尿が出にくく、膀胱に尿がたまりすぎてあふれて漏れるタイプ。男性の前立腺肥大などが原因のことがあります。
・機能性尿失禁:体や認知機能の問題でトイレに行くまでに漏れてしまうタイプ。高齢者に多く見られます。

尿失禁の対策にはどんな方法がある?

尿失禁の対策は、日常生活の工夫から始めることができます。
・骨盤底筋を鍛える「骨盤底筋体操」を行う
・トイレの回数を一定に保つ「排尿トレーニング」
・カフェインやアルコールを控える
・水分を極端に制限しない(脱水を防ぐため)
・体を冷やさないようにする

また、専用の吸水パッドを使うことで、外出時の不安を減らすこともできます。無理に我慢せず、生活の質を保つ工夫を取り入れることが大切です。

尿失禁は男性にも起こる?

尿失禁は女性に多いイメージがありますが、男性にも起こります。特に多いのは、前立腺肥大症や前立腺がんの手術後に見られる尿漏れです。
前立腺肥大症では尿の流れが悪くなり、膀胱に尿が残って漏れ出すことがあります。手術後は、尿を出す筋肉(括約筋)が一時的に弱まり、腹圧性尿失禁を起こすこともあります。
男性の尿失禁も治療やトレーニングで改善できる場合が多いため、恥ずかしがらずに泌尿器科に相談することが大切です。

尿失禁の治療にはどんな方法がある?

尿失禁の治療は、原因や種類によって異なります。主な治療法には次のようなものがあります。
・薬物療法:膀胱の過剰な動きを抑えたり、尿道の締まりを強くしたりする薬を使います。
・骨盤底筋訓練:筋肉を鍛えることで尿漏れを防ぐリハビリ的治療です。
・行動療法:排尿の間隔を整え、膀胱の容量を増やす訓練を行います。
・手術療法:重度の腹圧性尿失禁では、尿道を支えるスリング手術などが検討されます。

症状の種類に応じて、これらを組み合わせながら改善を目指します。尿失禁は「年のせいだから」と諦める必要はありません。適切な治療を受けることで、快適な日常を取り戻すことができます。